研究概要 |
奈良県大台ヶ原と京都府芦生の原生林において,時間スケールを短くした詳細な花粉分析と炭素片分析等によって,森林変遷と攪乱の歴史について検討した。本研究によって,森林動態の研究に花粉分析法が適用できることを明らかにした。 1.大台ヶ原と芦生において植生と表層土壌中の花粉組成の関係を検討した結果,ある地点周辺を被っている高木樹種の植被率と表層土壌中のその樹種の花粉頻度に正の相関が認められた。これを,花粉分析結果の解釈に用いて森林変遷を解明した。 2.大台ヶ原の正木が原周辺のトウヒ林は,少なくとも1000年間は継続しているが,それ以前にトウヒの非常に少ない時代が存在した。正木が原西方斜面では,約800年前以前に現在よりもヒノキが優勢な森林であった。牛石が原では,少なくとも1000年間,現在の植生に大きな変化はなかった。七つ池のブナ-ウラジロモミ林の毎木調査の結果,ニホンジカの食害により,ウラジロモミが多数枯死し,また,優占種であるブナの更新木が少なくなっていた。花粉分析によると,七つ池付近では,ブナ,ウラジロモミの森林が少なくとも1300年以上続いていた。この林分で,約300年前に小さくとも直径20mのギャップが形成され,ミズナラがこれを埋めた。この地点のミズナラの樹齢は年輪から約300年であり,花粉分析結果と調和的であった。このギャップ形成期に堆積物中の炭素片量も増加した。このことから落雷などの小規模な火災によるギャップ形成の可能性がある。 3.芦生の長治谷湿原周辺では10世紀から15世紀初頭にはスギが極めて優勢な森林が発達していた。当時のスギの花粉堆積量は現在のスギ人工林に等しかった。15世紀以降,火災を示す炭素片が堆積物中で増加した。これに伴いスギは減少し,ナラ類,クリなど二次林要素が急増した。その後,植林と二次林の伐採により,スギが増加し,ナラ類が減少した。
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