研究概要 |
この研究の目的は扇状地や氾濫原における自然渓流の地形変化過程やその特性を知ることである.過去における筆者の調査において,流路地形の特徴や流路変動に影響を与える要素などが調べられた.それらの調査過程において地下水が重要な要素として認識されるようになった.本研究においては地下水の挙動と詳細な流路およびその近傍の地形が調査され,地下水の機能が研究された. 人工的な撹乱を受けていない氾濫原において溝状の侵食微地形(トレンチ)において詳細な地形測量と地下水の観測(ピエゾメータ作設,地下水位の降雨との応答関係調査,トレーサによる地下水経路の調査等)を行った.水質分析の調査により,地下水には起源の異なるに2種類のものがあることが確認されること,そしてその影響は降下浸透ではなくこれとは性質の異なる地下水流動であることが強く示唆された.またトレーサ調査の結果からは地下における特定の水みちの存在が示唆された.これらのことから次のような結果が導かれた.1)起源と歴史の異なる複数の種類の地下水が存在し,2)ある種の地下水は斜面におけるパイプフローのように特定の水みちを速い速度で流動し,3)この高速で流れる地下水の通路は,氾濫原堆積物よりははるかに孔隙の大きい埋積された流路(化石流路)のような堆積構造の部分である可能性が高い. この結果をもとに,トレンチなどの特異な形状の侵食微地形の形成過程を推論し,最も重要な要因は地下水によるパイピング(特定の水みちを流動する地下水が土層の間隙水圧を上昇させ,土塊全体が不安定化し急激な土砂流動につながる)と結論した.そして,このような地下水の挙動が氾濫原や扇状地の発達過程に関与していると考えられた.
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