研究概要 |
ニホンカモシカによる林業被害の軽減を図るため,青森県下北郡脇野沢村における森林伐採とスギ人工林の成育に伴うカモシカ生息密度の変化の状況を総括するとともに,カモシカと生息環境の関係を解明するための基礎調査を実施した. 1:スギ若齢人工林,落葉広葉樹若齢二次林,落葉広葉樹壮齢二次林の3植生タイプの面積とカモシカ生息密度との間に正の相関関係が認められた.天然林では2〜5頭/km^2だったカモシカ生息密度は,天然林の4〜5割が伐採された15年後前後には,食物供給量の変化に伴い15〜18頭/km^2まで増加し,その後減少傾向を示した.2:食み取り行動の直接観察の結果,114種の採食植物を確認した.主要食物は,落葉広葉樹(57〜96%)と広葉草本(0〜39%)であった.高密度(16.7±2.5頭/km^2)条件下の16年間における食性の変化はほとんどなく,植生に対するカモシカの採食圧が弱いことが示唆された.3:主要採食植物(3季延べ46種)の窒素含有率は,4・5月(4.3%)と11月(2.8%)には最大成長要求量を,12〜2月(1.2%)には体維持要求量を,それぞれ満たしていた.4:糞中窒素量は,10・11月に2.9%,12月に1.8%,1〜2月に1.4〜1.5%,4・5月に4.0%であり、食物窒素量との間に相関関係が認められた.なわばりを重複させているつがいの雌雄で同様の糞中窒素量が示され,糞中窒素量がなわばりの質を示す指標になりうることが示唆された.5:冬の食物量を示す指標として,1.5m以下に採食可能な枝先のある落葉広葉樹の「地際断面積マイナス高さ1.5mの断面積」が有効であった.6:個体識別と行動圏の配置により生息頭数が既知の場所において区画法の精度検討を行った結果,落葉・積雪条件下の区画面積5haの場合のみ実際の生息頭数が正確にカウントされた.
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