研究概要 |
本研究は,マガキの放卵放精応答の機構解明を目的として,フィールドでの産卵生態,産卵刺激に対する応答を検討し,併せて中枢神経系,特に頭部神経節の神経分泌現象を中心に検討した。 1.フィールド及び人為刺激のもとでの産卵応答 松島湾内の2ヶ所(東名,野ノ島)出の産卵期の配偶子放出現象は若干の時期のずれがあり、それぞれ異なる産卵刺激によって誘発されたものと考えられた。しかし,いずれのマガキも産卵期に頻繁に微量な放卵を繰り返すことが確認された。一方,マガキの産卵はマガキ精子とセロトニン注射によって誘発された。放出配偶子量はいずれも刺激量に対し用量依存的であった。すなわち、マガキは何らかの環境からの刺激を受け,産卵を繰り返すころによって小さい集団内での産卵の同調性を獲得しているものと考えられる。 2.神経細胞の分類と生殖周期にともなうその消長 クロムヘマトキシリン(CH),アルシアン青・アルシアン黄(AB/AY)による染色性から,頭部神経節の神経細胞が4タイプに分類された。それぞれタイプIはCH陽性,AB/AY陰性,タイプIIはCH陽性,AB/AY暗緑色,タイプIIIはCH陰性,AB/AY暗緑色,タイプIVはCH陰性,AB/AY淡緑色であった。一方,内蔵神経節の神経細胞にはタイプI,タイプIVそして新たにCH陰性,AB/AY黄色のタイプVが認められた。頭部神経筋に70%の存在比で認められたCH陽性細胞の数は8月の産卵期にピークに達し、その後減少し,成熟期に向けて再び増加する傾向が認められ、明らかに生殖周期と同調していた。また,電子顕微鏡観察から神経細胞内に認められた分泌顆粒と類似した顆粒が頭部神経節から伸びる軸策にも観察されたことから,分泌顆粒の軸策内輸送の可能性が示唆された。 これらの結果から,マガキの生殖巣の発達や産卵には内蔵神経節よりむしろ頭部神経節の調節を受けている可能性が示唆された。
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