研究概要 |
コイ(幼魚)とキンギョ(成魚)を材料として,腎臓の連続切片を作製し,ネフロンの形態と分布を調べた。両種ともに,糸球体を出た尿細管は,一旦前方へ向かった後,大きく反転し,その後は小刻みに湾曲を繰り返しつつ集合管へと繋がった。一般に,前方に位置するものほど,一つのネフロンを構成している尿細管長は短くなる傾向にあった。また,糸球体は腎臓内に均一に存在しているのではなく,部分的に存在密度の大きいところのあることが判った。 コイを使って,尿量の調節に関係している内的要因(ホルモンと神経)およびその調節機構を調べた。尿量の調節は,主に(90%以上の割合で)糸球体濾過量を変化させることによって行われており,これには心拍数,心臓の収縮頻度,動脈の収縮および弛緩期血圧などが関与しているが,特に,腎臓を流れている血液量,しかも血液の局所分布が重要であることが判った。なお,尿量の調節に関係しているホルモンとして,カテコラミン,コリチゾル,アンギオテシII,プロスタグランディンE_2などが挙げられるが,前の二種類は主に尿量を減少させる方向に,後者二種は尿量を増加させる方向に働くことが判明した。また,神経による尿量の調節は,神経の切断実験およびプロプラノールやフェントラミンなど神経遮断剤を併用した実験によって,僅かであることが推測された。 非線形分光システムによる生体分子の動的把握法を使い,腎臓を経由する血管内の物質流の測定やヘモグロビン分子の腎通過に伴う変化等を測定するための予備的検討を行ったが,現状では,人工的に調製した標準試料においては,その中の分子状態の細かな変化はとれるものの,採取できる血液が小量であることや血液に含まれるものが多種多様のため,血液試料を分析するまでには至らなかった。
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