研究概要 |
一般に魚類において,ある年齢またはある体長に達するまで成熟が起きないことから,成長と成熟には関連があると考えられている。成長には成長ホルモン(GH)が強く関わり,また雌魚の成熟には雌性ホルモンが深く関わっている。この雌性ホルモンの作用のもと肝臓で雌魚の成熟指標であるビテロゲニン(VTG)が合成される。近年GHは成熟にも関わっていることが示唆され,本研究ではGHとVTGの動態を詳細に観察し,成長と成熟を蛋白レベルで解明する手がかりを得ることを目的とした。 初めにサケ下垂体からのGH精製法を検討し、3ステップでの精製法を確立した。次にGHの酵素免疫測定法(ELISA)をアビジン・ビオチン系を用いたサンドウイッチ法により確立した。使用した抗血清はrecombinantサケGHを家兎に免疫することにより作製した。確立した測定系は,0.5ng/mlが測定限界であり,血中GH量が測定可能となった。また,数種のサケ科 魚類の脳下垂体抽出物および血清の希釈系列は,サケGH スタンダードカーブと平行であった。これらのことからサケGHの本ELISA系は他のサケ科魚類においても有効であることが明らかとなった。 サクラマス血中GH量の周年変動を測定した結果,12月から4月までは,約30ng/mlであったが5月に約2倍量まで増加し,6月以降産卵期まで再び約30ng/mlを維持した。5月から6月にかけて急激な体長の伸張および体重の増加が観察され,その後変動しなかった。血中VTG量は5月の血中GH量増加後,顕著に増加し始め8月に最大値を示した。VTG誘導実験で血中VTG量を測定した結果,雌性ホルモンとGHを複合投与した群が最も高値を示した。これらのことから,GHが成長促進作用だけでなく,成熟開始のシグナル的な役割も果たしている可能性が示唆され,成長停止後も血中GH量が成長期と変わらぬことから,成長停止後のGHは,VTG分泌を促すことが推察された。
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