研究概要 |
繭糸をめぐる事業団制度には,生糸の一元化輸入,安定価格帯の設定方法,適正在庫水準の決定,在庫運営の在り方等問題は山積している。制度そのものの抜本的見直しが迫られているが,行政改革の掛け声ばかりが響くだけで,その本質には一向に手を付けられる兆しはみられない。ガット・ウルグァイ・ラウンドの終了,そしてWTO体制の発足という貿易自由化の流れに対する対応でみても本質的な改善施策は全くみられない。形式的には,生糸については国家貿易制度の形をとりながらの関税化対応を,繭については関税割当制度に移行することとなっている。しかし,これらは本来暫定的措置としてなされてきたはずの一元化輸入の固定化・制度化を,一見したところこの機会に行ったとしか受けとることが出来ない。意図どおりにほんとうにそうなのであろうか。 本研究においては,この事業団制度の本質は,基本的には価格安定政策と国境調整措置という2つの側面からの保護政策であるとの判断が大前提となっている。そのため、他の農産物に関する各種の価格政策及び貿易政策の手段と目標との関係,そしてその効果の評価の比較に大きな重点をおきながら,制度・政策評価を定性的に行なおうとしたものである。例えば,先に提起した価格安定のための同じ緩衝在庫政策であっても,一元化輸入という名の数量制限の下で行なう場合と,関税割当制度の下で行なう場合とでは,大きく効果が異なるということも理論的に明らかとしている。しかし,時間的制約,特に制度変更人の対応等から,今回は歴史的制度分析と理論的分析にどうしても重点を置かざるを得なかったことが心残りであるが,ここからのさらなる発展・展開・充実化は今後の課題とすることにしたい。
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