研究概要 |
食虫目トガリネズミ科に属するスンクス、ワタセジネズミ(ジネズミ亜科)およびエゾトガリネズミ(トガリネズミ亜科)の精巣組織の特徴について検討した。 精子細胞における先体は、エゾトガリネズミではそれほど伸長しないのに対し、スンクス、ワタセジネズミでは精子細胞の発育過程で著しい伸長を示した。一度伸長した先体は、精子細胞の発育がさらに進むと縮小し、その幅を広げ、最終的にはウチワ状となった。スンクスにおける先体の伸長は、ワタセジネズミに比べても著明で、最長時には精細管の基底膜近くにまで達した。また、電顕所見においても、先体がアクチンフィラメントの束と小胞体からなるES構造(Ectoplasmic specialization)とともに基底側に向かって伸長する様子がスンクス、ワタセジネズミともに明瞭に確認された。このような先体の著しい伸長は他の哺乳類では認められないことから、特に先体伸長の著明なスンクスの精巣組織に的を絞り、精上皮周期のステージ区分(13ステージに区分可能)を行うとともに、細胞骨格系の分布・動態およびレクチン染色性についてさらに観察を進めた。まず、ファロイジンを用いてアクチンフィラメントの分布を観察した。アクチンは精細管基底膜近くと管腔側の2カ所に確認された。血液精巣関門を構成するESに相当すると見られる基底側の反応は、全stageを通じて変化を示さなかった。これに対し、管腔側の反応はstage-dependent(stage I-IV,IX-XIIIで出現、V-VIIIで消失)に変化した。また、抗体を用いたビメンチン(中間径フィラメント)の反応性もstage-dependentな変化を示した。同じ中間径フィラメントのデスミン、サイトケラチンは精上皮に反応性を示さなかった。一方、GS-II,RCA-I,PNA,GS-I,SBA,BPA,DBAおよびUEA-Iの8種類のビオチン化レクチンを用いて染色を試みたところ、GS-II,RCA-I,PNA,SBA,BPAが先体に反応を示した。GS-IIの反応性が先体相において発現し、成熟相では消失したのに対し、他の4種のレクチンの反応性はゴルジ相で発現し、成熟相では弱陽性ながらも依然認められた。また、RCA-I,PNA,BPAはセルトリ細胞にも反応性を示し、しかもその反応はstage-dependent(stage VIII-XIIIで出現、I-VIIで消失)であった。RCA-I,PNA,GS-IIについてはストレプトアビジン-コロイド金を用いて、その反応性を電顕的に検討した。その結果、いずれのレクチンにおいても先体にコロイド金の局在が観察された。セルトリ細胞については、粗面小胞体、滑面小胞体などの細胞内膜系にコロイド金の結合が認められた。
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