研究概要 |
酵素処理により得られたモルモット心房筋細胞にパッチクランプ法による単一チャネル電流記録および全細胞膜電流記録を行い,P_2-プリン作動性受容体による遅延整流性K電流,ムスカリン性K電流およびCl電流の調節に関与する細胞内情報伝達機構について検討した.これらの電流系のうち,遅延整流性K電流およびムスカリン性K電流の調節機構についていくつかの点を明らかにしたので報告する.百日咳毒素前処置により遅延整流性K電流の増大反応は影響を受けなかったが,ムスカリン性K電流の活性化は消失した.すなわちP_2-性作動性受容体刺激による遅延整流性K電流の増大反応には百日咳毒素感受性G蛋白が関与していないが,ムスカリン性K電流の活性化には関与していることが明らかとなった.また,cell-attached modeによる単一チャネル電流記録において,ATPを電極内に加えたときには平均開口時間が約1ms,単一チャネルコンダクタンスが約50pSのムスカリン性Kチャネルの活性化が観察されたが,ATPを細胞潅流液に投与したときには電極内のチャネルの活性化はみられなかった.この実験結果は,P_2-プリン作動性受容体によるムスカリン性K電流の活性化に関与する情報伝達機構が,細胞膜に限局していることを強く示唆している.百日咳毒素前処置による実験結果とともに考えあわせると,P_2-プリン作動性受容体は百日咳毒素感受性G蛋白を介して細胞膜内でムスカリン性Kチャネルと連関していることが強く示唆された.また細胞内cyclicAMP(100μM)負荷により最大限に増大した遅延整流性K電流に対して,P_2-プリン作動性受容体刺激はさらなる増大反応を誘発したことにより,この反応にAキナーゼが関与していないことが示唆された.このようにP_2-プリン作動性受容体による遅延整流性K電流の調節機構については未だ特定はできていないが,百日咳毒素感受性G蛋白およびAキナーゼの関与は否定的であった.
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