研究概要 |
ヒトの運動時に筋交感神経活動がどのような役割を担うかを明らかにすることを目的とした.健康人を対象として,臥位での随意的な掌握運動と前腕の屈曲運動,および立位での随意的な足の底屈運動と背屈運動の負荷時における筋交感神経活動を脛骨神経からニューログラム法により記録して解析した.同時に,活動筋の表面筋電図と自覚的な筋疲労感覚,および血圧を測定した.足の底・背屈運動としては,等尺性の持続性運動と律動性運動の両者を負荷し,筋交感神経活動の変化を比較した.このほか,律動的な不随意運動としての振戦の発現時における筋交感神経活動,血圧変動,下腿容積(静脈貯留量)の変化を解析した.1.臥位での持続性掌握運動時にも,前腕の持続性屈曲運動時にも,脛骨神経から記録した筋交感神経活動は緊張力,筋放電量,筋疲労感覚に応じて促進され,血圧上昇を伴った.2.立位での足の持続性底屈運動時にも背屈運動時にも,同側の脛骨神経から記録した筋交感神経活動がほぼ同様に促進された.しかし,足の律動性底・背屈運動時にはこの活動が逆に抑制された.3.筋交感神経活動の促進された状態で振戦が発現したが,振戦の発現に応じて下腿容積の減少と血圧上昇が一過性に引き起こされ,これと共に筋交感神経活動が抑制された.振戦と血圧変動との間には有意な正の相関が認められた.以上の結果から次のように結論した.持続性運動時には非活動筋と活動筋の両者を支配する筋交感神経活動が促進され,この促進反応は筋疲労に拮抗する役割と,血圧を上昇させて大脳や活動筋への血流を増加する役割を担う.持続性運動時には主動筋と拮抗筋支配の交感神経活動が同様に促進され,体性神経でみられるような相反性支配は認められない.随意的および不随意的な律動性運動時には筋交感神経活動が抑制される.この抑制反応には静脈還流の促進と血圧上昇が関連し,律動的な筋収縮に伴う筋ポンプ作用が関与する.
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