cAMPによって活性化されたAキナーゼはCREBのSer-133を燐酸化する。この燐酸化によってCREBは活性化型となりCRE遺伝子の転写を亢進させる。このようなモデルが成立するためには細胞質に存在するとされるAキナーゼと、核内に存在するCREBがどこかで出会わなければならない。もともとcAMPは細胞膜上のアデニレートシクラーゼによって合成されるので、cAMPシグナルは細胞膜から核内までの空間的乖離を越えて伝達されねばならない。こうした機構がCREBの転写活性化に関与しているかどうか調べるため次に述べるような実験を行った。 調節サブユニットをロ-ダミンで、触媒サブユニットをFITCでそれぞれ標識した後、会合させて作ったホロ酵素をマイクロインジェクションした。会合した分子内ではFITCとロ-ダミンが近接するため干渉が起こるが、解離した後は干渉が解けて本来のemission waveに戻ることを利用している。筆者らはこの方法によって、Aキナーゼがフォルスコリン添加後10分程で活性化され、解離した触媒サブユニットが20分程で核内に移行することをつきとめた。CREBの燐酸化が30分でピークを迎え、転写活性化が1時間ほどで最大になるなど、一連の事象の時間軸は非常に良く符合した。 われわれれの用いた2重標識法は細胞内で複合体を作って生理活性が調節されているような分子、例えばサイクリンなどの研究にも汎く応用可能な方法であると思われる。cAMP系では今後、Aキナーゼ触媒サブユニットの核内移行機構のメカニズムを明らかにする必要がある。最近MAPキナーゼなどでも核内への移行が報告されており、蛋白質燐酸化酵素の核内局在化機構はますます重要なトピックスになると思われる。
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