研究概要 |
レチノイン酸(ATRA)、活性型ビタミンD_3(1,25(OH)_2D_3)など数多くの低分子分化誘導物質が知られているが,そのうちATRAは“分化誘導療法"としてAPL患者の治療として臨床的に実用化されている。人骨髄性白血病細胞株(HL-60)の分化・成熟における蛋白脱リン酸化酵素セリン/スレオニンホスファタ一ゼ(PP)系の関与を明らかにするために、1,25(OH)_2D_3による単球系細胞分化誘導におけるホスファターゼ1型(PPI)及び2A型(PP2A)の活性とその発現について検討した。【結果】(1).PP阻害剤カリクリンA自体はHL-60細胞の分化は誘導しないが、l,25(OH)_2D_3による単球系細胞分化・成熟を促進した。(2).1、25(OH)_2D_3でHL-60細胞を刺激すると、PPI活性は細胞質分画で減少し72時間後には刺激前の約50%にまで減少し、核分画及び膜分画のPPI活性はそれぞれ刺激前の1.9倍、1.8倍に増加した。PPI触媒サブユニットの各アイソザイム(PP1α,PP1γ,PP1δ)の変動を検討すると、1,25(OH)_2D_3刺激により細胞質分画よりPP1γが最も早くついでPP1αが減少し、PPIγは核分画及び膜分画に増加、又PPIαは主に膜分画に増加した。PP1δの細胞内分布の変動は軽微であった。(3).PP2Aの活性及び蛋白発現量は1,25(OH)_2D_3でHL-60細胞を刺激しても変化しなかった。(4).HL-60細胞におけるPP1α及びPPIγのmRNA発現は共に1,25(OH)_2D_3刺激により変化しなかったことより細胞質分画でのPP1α及びPPIγの減少は遺伝子発現の変化によるものではないと考えられた。 【考察】ATRAによるHL-60細胞の顆粒球系細胞分化同様、ホスフアターゼ系は1,25(OH)_2D_3による単球系細胞分化・成熟過程にも深く関与していることが考えられる。又、PPI酵素の細胞内分布の変化が、1,25(OH)_2D_3によるHL-60細胞の単球系細胞分化と相関することから、PPI酵素のトランスロケーションは単球系細胞分化過程に密接に関与すると考えられる。このトランスロケーションはPPIのアイソザイム特異的に起こり、PPIα及びPPIγのトランスロケーションが分化過程に重要と考えられる。
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