研究概要 |
新生仔ラット心筋細胞の初代培養系は、自発性拍動能を有し拍動を誘発するために電気刺激の必要がないこと、培養経過に伴って多数の細胞が同期的拍動を開始し、生体における心筋の同期性拍動の機序を解明する上で優れた実験系である。新生仔ラット心室筋の初代培養細胞および加齢ラット心室筋を用いて心筋細胞の興奮収縮連関における細胞間チャネル蛋白質(コネキシン43)の機能的役割とG蛋白質によるその調節機構を知るため、心筋細胞集団における同期性拍動出現とコネキシン43蛋白質ならびにG蛋白質の発現および分布との時間的関係(心筋細胞の培養経過および加齢に伴う変化)を検討し、以下の点が明らかになった。1)新生仔ラット心室筋の初代培養細胞系を確立するともに、非接触型精密変位計(フォトニックセンサー)で心筋細胞の培養経過に伴う同期性拍動の測定法を新たに考案した。これによる測定により自動拍動数は培養経過と共に増加し、培養日数に依存して非同期性拍動が同期性拍動へと変化することを観察した(Comp. Biochem. Physiol.,107C,295,1994;Life Sci., 54,PL451,1994;Exp. Cell Res.,212,351,1994)。2)新生仔ラット心室筋の初代培養細胞系において、培養経過に伴う非同期性拍動が同期性拍動へと変化する時期には、細胞間ギャップ結合蛋白質のコネキシン43およびG蛋白質αサブユニット(Gsα, Gi2α, Gqα, Goα)の発現がともに上昇していることを観察した(Comp. Biochem. Physiol.,105C,479,1993;Exp. Cell Res., 212,351,1994)。3)老齢ラット(24か月齢)心室筋では、成熟ラット(6か月齢)に比べ同期拍動性が低下している傾向がみられ、特にGsα蛋白質サブユニットならびにその遺伝子発現が低下していることを観察した(Eur. J. Pharmacol., 266,147,1994)。心筋細胞の培養経過に依存した同期拍動形成と、細胞間チャネル蛋白質およびG蛋白質発現には顕著な類似した変化がある。また、加齢に伴い心筋Gsα蛋白質発現の低下がおこる。今後の研究の方向性としては、心筋細胞の細胞間チャネル蛋白質ならびにG蛋白質の発現を特異的に抑制することまにより、ギャップ結合が心筋の同期性拍動に関与しているか否かを直接的に証明し、G蛋白質によるその調節機構を明らかにすることが重要と思われる。
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