研究概要 |
心臓のポンプ機能にとって、その容積の30%を占めるミトコンドリアの関わりは極めて基本的である。ミトコンドリアは真核細胞と共生して、その内膜でATPなどのエネルギー通貨をH^+勾配を作って産生する一方、Ca^<2+>、Na^+イオンを介して、ミトコンドリア自体の機能を保持し、心筋収縮系に対する細胞質の環境を整える。この意味から、虚血心筋/再灌流障害の機能障害のメカニズムを知るには、ミトコンドリアのエネルギー通貨ATP,Pcrの生産と輸送をNMRで測定し、ミトコンドリア内pH,Ca^<2+>などの蛍光測定は、心筋の機能の情報と理解に重要である。また、近年、ミトコンドリアに働く薬物とそのレセプターが解明され、細胞内小器官の薬理学の研究が始まった。 平成6年度には、MNR所見より急性虚血心筋の収縮脳は、細胞質内Ca^<2+>よりも、ミトコンドリアのエネルギー通貨ATP,CP,Pi,ADP産生比率により規定される自由エネルギー変化(-ΔG)が大きく影響することを明らかにした(H.6.10イタリー)。その後、更に、エネルギー転送機構のクレアチン憐酸CPシャトルとイオン動態と収縮能との密接な関係を示した(H.7.3名古屋薬理学会総会) 平成7年度には、エネルギー産生/利用とH^+,電解質動態との連関が重要であるとの認識から、電解質のうち、ミトコンドリアのATP産生の元となるプロトンと他の電解質Na^+,K^+,Ca^<2+>との交換系に注目して研究を行った。これら電解質とH^+との交換系は心筋細胞膜とミトコンドリア内膜にあるので、この部位を区別するべく、単離ミトコンドリアをポリリジンに固着させてその表面を灌流し、顕微鏡下に主要イオンH^+,Ca^<2+>を蛍光測定し、イオン輸送の交換阻害があると思われる物質(ELPA,omeprasol)や、Na^+,K^+などの添加条件について検討した。この結果、ミトコンドリア内膜には、H^+-Na^+交換系のみならず、H^+-K^+交換系が存在することが明らかとなり、ミトコンドリア内pHは、Na^+,K^+,Ca^<2+>との関係に於いて変化した。また、ミトコンドリアは高濃度処理後の生理濃度Ca^<2+>やpHの酸性化で急上昇し、虚血/再灌流障害をミトコンドリアレベルで説明する知見を得た。 また、心筋の前負荷変化にミトコンドリアのエネルギー産生との電解質輸送が大きく変化するとの結果を得て、機械的な伸展が電解質およびエネルギー代謝にカップルするとの結論に達した(H.8.3.,長崎,69回薬理学会総会)。
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