研究概要 |
循環機能は神経性および体液性因子によって調節されている.私達はこれまで神経性の循環調節因子としてのタキキニン・ペプチドの役割を検討してきた.その結果,タキキニン・ペプチドは中枢から交感神経を介する系と,下垂体からのバソプレシン遊離による系との二つの機構によって循環調節を行なっているという興味深い結果を得た.そこで本研究ではその経験を生かし,バソプレシンの循環調節役割について,機能的および分子生物学的手法を用いて,総合的な解明を試みた.特にバソプレシンに注目したのは,最近,バソプレシンのV1およびV2受容体に選択性の高い拮抗薬が開発され,バソプレシンの生理的多様性が解明されているからである.平成6年と7年の2年間に亘る科学研究費補助金によって,十分に計画を推進することができた.私達はバソプレシン受容体結合実験やバソプレシン受容体mRNAの発現実験から,血管運動中枢の延髄の孤束核や視床下部,さらに海馬にバソプレシン受容体が存在していることを明らかにできた.また,脳のバソプレシン受容体は従来の末梢のV1およびV2とは異なる性質を有している可能性も示唆された.さらに,動脈圧受容器反射の感受性変化に対する脳幹のバソプレシン受容体の関与を検討した.その結果,正常血圧ラットの場合,動脈圧受容器反射の感受性は,最後野のV1受容体により抑制的に,V2受容体により亢進的に,それぞれ調節されていることが明らかになった.バソプレシン受容体mRNA発現実験の成績では,正常血圧ラットの最後野ではV1aまたはV2いずれのmRNAも検出できなかった.しかし,上記の高血圧モデルラットで,正常血圧ラットには認められなかった最後野のV2受容体mRNAが,高血圧発症中期の動脈圧反射の感受性亢進の時に発現した.一方,ある種の高血圧モデルラット(腎性体液過剰型高血圧モデルラット)の高血圧発症中期では,動脈圧受容器反射の感受性が強く亢進することを認めた.これは,昇圧反応に最後野のV2受容体の関与が示唆された.
|