研究概要 |
ヒト赤血球可溶画分よりサブユニット構造の異なる4種のオプロテインホスファターゼ2A(PP2A):α_1β_1,α'_1β'_1,α_1β_1γ_1,α_1β_1δ_1を分離精製した。αとα'(34kDa)は触媒サブユニットでβとβ'(63kDa),γ(53kDa),δ(74kDa)は調節サブユニットである。α'_1β'_1はMn^<2+>依存性PP2Aであり,α'とα,β'とβはそれぞれ蛋白化学的に区別出来ない。α_1β_1は2価金属イオンが無くとも活性があり,Mg^<2+>またはMn^<2+>によって活性化を受けるが,α'_1β'_1は完全にMn^<2+>依存性でMg^<2+>のみでほとんど活性がない。この性質の違いはαとα'の違いによる。一方,δをリビ・アジュバンドシステムを用いてマウスの腹腔に投与し,δに特異的な抗体を得た。この抗体と反応する蛋白質のラットにおける組織分布をウエスタンブロット法で検討した。その結果,赤血球,脳,心臓,肺,副腎,精巣の可溶画分に単一の70kDa抗体反応蛋白質を認めた。特に含量の多い脳可溶画分よりこの蛋白質を精製した。この蛋白質は,ヒト赤血球α_1β_1δ_1と類似のサブユニット構造を持つ分子量約16万のPP2Aの調節サブユニットであることが判明した。したがってラットでは74KDaδに相当する70kDa調節サブユニットが赤血球のほかに脳に多く分布することがわかった。他方,すでに決定したδの部分アミノ酸配列に基づいてオリゴヌクレオチドプライマーを作成し,HeLa細胞より合成したcDNAを鋳型としてPCR法でδをコードする0.5kbのcDNA断片を単離した。この断片をプローブとしてヒト大脳由来のλZAPcDNAライブラリー30万クローンをスクリーニングして6個の陽性クローンを単離した。このうちδの全長をコードすると思われる2.9kbのインサートを有するクローンよりその塩基配列を決定した。これから明らかになったδの一次構造は,他のサブユニットの一次構造との類似性が乏しく,δが独自の機能を有するものと想像された。
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