研究概要 |
ヒト前立腺癌は病理組織学的に従来からその組織多様性heterogeneityが特徴とされ、欧米では種々の分類が用いられている。これら組織学的特徴と遺伝子変異との関係を詳細に検討した研究は乏しく、今回既知の癌遺伝子(ras)及び抑制遺伝子(p53,p16/CDKN2)についてPCR-SSCP法とsuquence法により検索を行った。全摘された9例の前立腺癌の全割切片から部位の異なる組織で形態的差異を示す5-10分画についてDNAを抽出した。ras及びp53遺伝子は9例中3例(33%)と高頻度に見出され、それぞれ小さな領域で生じている場合と腫瘍の大半の領域で生じている場合があったが、組織学的分化度より浸潤性を示す部位に変異が多くみられた。p53遺伝子のLOHについては、informative case4例中2例に部分的に認められた。(Am.J.Pathol.)p16/CDKN2遺伝子のhomozygous deletionはなく、ミスセンス変異が2例(22%)あり、非常に小さな領域に生じていた。(Int.J.Oncol.)以上の検索で3遺伝子の変異が同時に生じた領域とp53,p16両者の遺伝子異常がみられた領域が各々1カ所見出された。このように腫瘍の全領域を検索することにより時として小さな部位にも遺伝子変異が生じていることが明らかとなった。更に特定の領域は遺伝子変異の蓄積が見出され、腫瘍発生及び進展に何らかの役割を有すると推察された。しかしながらこれらの遺伝子変異を有する領域と変異のない領域との腫瘍の生物学的差異は明らかではなく、今後の検討課題であると考えられる。また、本研究では症例数は少ないものの変異の頻度は高く、このような手法で解析した結果から従来の遺伝子変異の頻度は実際には低く見積もられていると推定される。
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