研究概要 |
大腸癌の発生・進展の過程では癌遺伝子K-rasの活性化、癌抑制遺伝子APC (adenomatous polyposis coli),p53およびDCC (deleted in colon cancer)の不活化がadenoma-carcinoma sequenceの各段階に対応して多段階的に発生,蓄積している。胃の分化癌腺癌も大腸癌と同様の遺伝子的発生経過によって,腺腫から発生している可能性が指摘されていたが,胃癌の分子発生に関する研究は少なく,さらに胃腺腫の遺伝子異常はほとんど検索されていなかった。本研究の結果,分化型胃癌ではp53の変異,DCCの欠失が高率に検出されるが,K-rasの変異は稀であり,APCの変異も超高分化型胃癌に認められることが報告されているが,毎常みる中〜高分化型胃癌では少なかった。胃腺腫では,APCの変異が20%前後に認められる以外に高率と検出される既知の遺伝子異常はなかった。従って,分化型胃癌の分子発生は大腸癌と異なっており,胃におけるadenoma-carcinoma sequenceを裏づける遺伝子的な根拠は証明されなかった。さらに,胃腺腫の前癌病変としての意義を検証するために,allelotypeおよびgenetic instabilityを解析し,分化型胃癌と比較したところ,分化型胃癌では早期癌の段階ですでに複数の染色体上にloss of heterozygosity(LOH)やreplication erroy (RER)が検出されるのに対して,胃腺腫ではLOHやRERが検出されることは極めて稀であった。胃腺腫では遺伝子異常の蓄積が少ないことが,癌化率の低さに対応していると考えられる。これらの成績から,分化型胃癌の多くはde novo発生と推測された。さらに,分化型胃癌のallelotype解析の結果から,染色体5gおよび21g上のそれぞれ2ヶ所に共通欠失領域を同定した。胃癌で高率に見いだされる5g欠失の標的遺伝子はAPCではなく,IRF-1(interferon regulatory factor-1)が候補のひとつと考えられた。
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