研究概要 |
p53遺伝子の本来の働きは遺伝子不安定性(genetic instability)の防御である可能性が指摘されている。すなわち、細胞がDNA障害を受けた際に細胞回転をGI期で停止させてDNA修復に必要な時間を稼ぐということである。したがって、正常p53遺伝子の機能が失われている細胞ではこのようなcell cycle checkpoint機能が失われ、DNAは障害を持ったまま複製し、染色体異常や突然変異を生じやすくなると考えられる。我々はこのようなp53の働きを分離ラット肝細胞を用いて検討し、以下の結果を得た。 (1)新生児ラット、マウス肝細胞をコラゲナーゼ灌流により分離して、EGF,insulin添加williams E 培地にて培養し、その増殖動態をflow cytometry,BRDU labelingなどにより検討したところ、cell cycleが進み24時間からS期に入ることが明らかになった。 (2)これらの細胞に対して、UV,mitomycin C,antinomycin D の処理によりDNA障害を与えたところ、Gl arrest に陥ること及びその時にp53が核内に異常蓄積すること、さらにこの蓄積の原因はp53の寿命が延長するためであることが明らかになった。また、そのGl arrestは24時間後に解除された。 (3)antisense oligonucleotideをp53 cDNAの開始コドンから20merに合わせて合成し、それを培地中に加えることにより、UV照射後のp53の発現を著明に抑制することができた。この条件下でUV照射後の増殖を調べたところGl arrestは約50%解除された。 以上の結果は、p53はDNA障害後のGl arrestに直接関わっていることを示すものである。今後、このGl srrest能が肝発癌過程の前癌細胞及び癌細胞でどのように変化するかを検討する予定である。
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