当講座でヒト大腸の高分化型腺癌より樹立されたRCM-1細胞を、ヌードマウスの脾臓被膜下へ接種し、その肝転移巣を採取するという操作を10回繰り返して得られた高転移株細胞RCM-1:L-10細胞株を用いて、TPAによるラボテックチェンバー内での集団遊走のメカニズムを解析して以下の知見を得た。 1)細胞島より遊走した一層の細胞群においては、遊走を示さず細胞島を形成する細胞に比べてE-cadherinの免疫染色は減弱していた。電子顕微鏡学的観察によると、遊走した細胞では細胞下部で細胞間接着が解除され細胞間隙が開大し、先導葉を先行する細胞の下方へ伸ばしていた。細胞上部では細胞間接着は維持され、免疫電子顕微鏡学的に同部にE-cadherinの発現を認めた。 2)非遊走細胞と遊走細胞におけるE-cadherinの蛋白レベルでの発現量の変化は無いことがimmunoblot法により確認された。またE-cadherinの細胞内分布の変化も細胞分画法とimmunoblot法によっては検出されなかった。 3)遊走細胞において、E-cadherinとその結合蛋白であるcateninのリン酸化が増加していることが、抗リン酸化チロシン抗体を用いたimmunoblot法により確認された。 以上、TPA刺激によりRCM-1:L-10細胞では、E-cadherinとその結合蛋白であるcateninのリン酸化を介して、細胞下部での局所的な細胞間接着の解除が生じ先導葉が伸展して、細胞上部での細胞間接着により集団を形成しつつ遊走するというメカニズムが示唆された。
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