研究概要 |
一般に、由来組織の異なる細胞同士を融合すると分化形質の発現が抑制されることから、分化経路の決定に「正」の調節機構と同様、「負」の調節機構が重要な働きをなすと考えられるが、分子機構およびそれらの階層的支配の詳細についてはよく分かっていない。 我々は平成6年度、(1)マウスT細胞リンパ腫に線維芽細胞を融合すると、TCRα,TCRβ,CD3δ遺伝子、lckがん遺伝子の発現が遺伝子の存在にも拘わらず抑制されること、(2)一方、T細胞リンパ腫にB細胞リンパ腫を融合した場合には、TCRβ遺伝子の発現は抑制されるが、TCRα,CD3δ遺伝子、lckがん遺伝子の発現は抑制されないことを見い出し、2篇の英文論文として既に発表した(Eur.J.Immunol.,25:2710-2713,1995;Cytogenet.Cell Genet.,72:12-19,1996)。 平成7年度は、これらのT細胞関連遺伝子の発現制御に関与する転写因子遺伝子の発現について検討を加えた。その結果、T細胞リンパ腫に線維芽細胞を融合した雑種細胞では、Sp-1,E12,Ets-2,CREBのようにubiquitousに発現している転写因子、あるいはPEBP2αB,Ets-1のように両親細胞で発現している転写因子の遺伝子の発現は抑制されないのに対し、リンパ球特異的転写因子遺伝子LEF-1,TCF-1,GATA-3,Ikaros/LyF-1,Elf-1およびc-myb,fli-1がん遺伝子の発現は著しく抑制されていることを見い出した。従って、線維芽細胞の融合によりT細胞リンパ腫のTCR/CD3遺伝子、lckがん遺伝子の発現が抑制される理由の一つとしてこれらのリンパ球特異的転写因子遺伝子の発現が抑制されることによるものと推測された(論文投稿中)。
|