大腸癌の発生、進展には複数の遺伝子変化が起こっていることが明らかになってきているが、転移、浸潤に関与する遺伝子変化については現在のところまだよく判っていない。我々は、転移性を示す進行大腸癌で8番染色体短腕の欠失を高頻度に認めており、8番染色体上に大腸癌の進展に関与する癌抑制遺伝子の存在が予想された。そこで8番染色体短腕に欠失のある大腸癌細胞に正常8番染色体を移入したところ、8番染色体短腕が移入された細胞では癌形質が抑制され、再構成基底膜を用いた浸潤能も低下していた。また、移入細胞から8番染色体短腕特定領域が脱落し、癌形質が再発現したリバータントが得られた。そこで、大腸癌の進展に関与する遺伝子を検索するために、8番染色体移入細胞とそのリバータント細胞から全RNAを調整し、さらにオリゴ(dT)セルロースカラムによりポリA付加mRNAを調整した。リバータンント細胞から調整したmRNAをoligotex-dT30にアニールし、(dT)_<30>をプライマー、mRNAを鋳型として逆転写酵素によりcDNAを合成した。熱変性後遠心により上清画分のmRNAを除き沈殿画分のcDNA-oligotex-dT30に正常8番染色体移入細胞から調整したmRNAを加えハイブリッドを形成させ、遠心により共通のmRNAを除いた。この繰り返しにより濃縮した8番染色体移入細胞に特異的なmRNAを鋳型として、2本鎖cDNAを合成し、BluescriptIIのクローニング部位に挿入し、大腸菌にトランスフェクトしてライブラリーを作製した。現在、移入細胞とリバータント細胞のcDNAをプローブにしてデファレンシャルハイブリダイゼーションを行い8番染色体移入細胞に特異的な遺伝子のクローンの選択を行っている。
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