研究概要 |
本研究の最終目的は、寄生線虫が生体内でいかなるメカニズムにより温血動物に感染し、その体内移行を行っているのかを解明するためのものである。今回はその研究の一環としてin vitroでのネズミ糞線虫感染型幼虫(L_3)の化学走性実験を試みた。測定系は初めてin vitroアッセイ系として確立したアガロース寒天平板を用いた。同平板周辺部にアトラクタントを置き、45-60分間室温放置後、中央部にL_3300隻を置き36℃、45分間放置した。その後アトラクタント部に集積したL_3をカウントした。無機化合物はNa^+,K^+,Ca^<++>,Mg^<++>(0.01-0.2M)である。コントロールとして蒸留水(DW)を用いた。その結果、L_3はNa化合物であるNaOH,Na_2CO_3,NaCl,NaHCO_3等に良く集積し、その濃度は0.05Mが最適であると思われた。化学走性の強さはNa_2CO_3>NaHCO_3>NaOH>NaClの順であった。他の金属イオンとOH^-、Cl^-化合物(全て0.05M)であるNaOH,KOH,Mg(OH)_2,Ca(OH)_2:NaCl,MgCl_2,CaCl_2,KCl,DWについて試験した結果、Na化合物にのみ多数のL_3の集積が見られ、他化合物には集積を認めなかった。CO_3-化合物に関しては、Na_2CO_3,K_2CO_3は易水溶性であるが、MgCO_3,CaCO_3は難水溶性であるため、走性は正確には不明であるが、K_2CO_3にはL_3の集積を認めなかった。またあらかじめ寒天内に各濃度のNaClが溶解している平板で、各濃度のNaHCO_3をアトラクタントとした同様のアッセイを実施した結果、L_3のNaHCO_3への走性に著明な阻害が見られた。その他、pH7.0に調整した0.05MのNaHCO_3,NaOHにもL_3が集積することを認めた。有機化合物では各種動物血清、アルブミン、一部のペプチドに走性を示した。以上の結果から、L_3は、Na化合物および血清蛋白に正の走性があることが認められた。Na化合物は生体内に多く存在し、生体内Na^+もL_3が走性(感染)を起こす一つの誘因物質であることが示唆された。(第47回日本寄生虫学会南日本支部大会で一部発表,現在投稿準備中)
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