研究概要 |
赤痢アメーバの核DNA合成サイクルの解析に関しては信頼性の高い方法論が確立されていなかった。フローサイトメトリー(FCM)法による核DNAの定量的解析は既に確立されている有用な手法であるが核酸蛍光プローブとアメーバ細胞質内物質との非特異結合(或いは核外DNA)の問題があった。平成6年度はこの非特異蛍光物質の除去を目的としてDvorakとDiamond (LPD/NIAID,NIH,USA)との共同研究、及び協力の下に界面活性剤(抽出)と酸(固定)を用いた固定法について検討し良好な結果を得ることができた。そしてFCMによる赤痢アメーバ核DNAの合成サイクルの解析が可能となり、また固定後に5M ureaを用いるユニークな裸核処理方法も見いだした。(結果の要約):FCM解析により、対数増殖期では分裂期(M)とDNA合成(S)期との間の第1休止(G1)期とS期のピークが、そして増殖静止期ではG1,S,G2-M期のピークが複合したひとつのピークとしてみられることが推計学的なDNA分布モデルから推定された(Dvorak et al.,1995)。平成7年度は赤痢アメーバのS期の細胞をチミジンのアナログであるブロモデオキシウリジン(BrdU)を取り込ませ、抗BrdUモノクローナル抗体と反応させ、蛍光抗体法により標識しFCMにより検討した。その結果は先に蛍光強度幅の広い単一ピークの中に数学的に推定されたS期のピークとほぼ一致してみられ、このDNA分布モデルの正しさを裏づけるひとつの結果と考えた。赤痢アメーバと形態的には鑑別が困難である非病原性(赤痢)アメーバ(Entamoeba dispar)との核DNA合成サイクルの比較検討を試みるため緑膿菌とのmonoxenic culture systemで培養したE. histolyticaとE. disparから裸核処理することで核を分離し、これを試料として検討を試みたが予想された以上に広範囲に緑膿菌のDNAが混在したためデータ処理に困難を生じた。困難であったE. disparの無菌培養法が1%H_2O_2で処理し殺虫したCrithidia fasciculataを添加した培地で可能となり(小林ら、1995,suppl.)、DNA合成に関わるDNA polymeraseの性状の比較が両種アメーバ間で可能となった。その結果、DNA polymerase活性は従来多くの細胞で報告されてきた性状(中性〜塩基性領域で活性が高い)とは異なり、ともに酸性領域で高い活性を示すことがわかった(牧岡ら、1995,suppl.)。現在、この無菌培養法をさらに発展させることでE. disparの核DNA合成サイクルの解析に応用したいと考えている。
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