研究概要 |
カなどの媒介昆虫類の生体防御機構の研究は異物の周囲にメラニンが沈着する反応(プロフェノールオキシダーゼ(proPO)活性化系)に着目した研究が多く、異物認識機構に関するアプローチがほとんどなされていない。本課題ではこの問題を解明すべく、カ体液レクチンの生物的役割を明かにするためにオオクロヤブカ体液よりレクチンの精製を試みた。今まで,オオクロヤブカ約7万匹より60ml栓の体液を採取し,種々のクロマトグラフィー樹脂に対する結合・解離を調べた。その結果,DEAE樹脂に結合性があること,および,鉄イオンにアフィニティーが有ることが明らかになった。ゲルろ過では分子量500-600kDaの分画に活性が見られ,キレートアフィニティー-クロマトグラフィーより部分精製された分画をSDS電気泳動で調べたところ,46,48KDaの部分と80kDaの部分にバンドが認められた。これらがCタイプレクチンの候補と思われる。その後,高速液体クロマトグラフィーで精製を進めたが,各分画にはヒト赤血球に対する凝集活性が認められなかった。一方、この体液はヒト赤血球に対して溶血活性を示すが、この溶血に体液レクチンが関与している事が示された。また,in vitroでフィラリア幼虫と体液とを20時間反応させたところ,未処理体液と反応させた幼虫は約半数が部分的な組織崩壊を起こした。しかし,熱処理体液(45 C),EDTAおよびセリンプロテアーゼ阻害剤添加体液では殆ど組織崩壊が起こらなかった。この事より,体液中の溶血活性系と幼虫組織崩壊因子とは何らかの関係があると推察された。これらの結果よりカ体液中に存在するレクチン様タンパク質が異物のメラニン化,寄生虫の組織崩壊に関与している事が強く示唆された。
|