研究概要 |
本研究は、マラリアの病因の主要なサイクルとなる赤血球内増殖機序を、本原虫の増殖に不可欠とされる血清中の因子との関連から解析することを目的とするものである。 1)糸口としてまず、熱帯熱マラリア原虫(P.f)の無血清培地を用いた培養法の開発と、必須因子の同定を試みた。種々基礎検討を重ねた結果、成牛血清中に本原虫の赤血球内増殖を促す物質の存在を確認した。硫安分画法を用いて活性物質を含む分画を分離した結果、その分画は、ヒトやマウスのミエローマ-細胞等の広範な細胞増殖因子として開発されて市販されているDaigo's GF21中に含まれるものとほぼ同一であることがわかった。この増殖因子はT培地と組み合わせて用いるP.fの増殖をヒト血清添加培地と同等に促した。 Daigo's GF21の至適濃度範囲は5-20%で、10%において最も良好な増殖がえられた。またdifferential count法によって、この因子は本原虫のschizogonyを促すのに必須であることが判明した。さらに本増殖因子を含む市販のGIT培地は何も添加する必要も、順化期間も必要とせず本原虫の増殖を促した。その結果ヒト血清由来物質を用いない無血清培地を用いた培養法が開発できた。 2)その増殖因子は基礎培地としてT培地を用いた時のみ効果を発揮したことから、本増殖因子がP.f増殖を促すために必須となる低分子量物質の同定を試みた。その結果、高濃度のhypoxanthine であることが明らかになった。更に、adenine,guanine,inosine,NAD,NADH等広範なものにhypoxanthineと同様な効果が認められることが判明した。マラリア原虫体内に取り込みが報告されているethanolamineやorotic acidには活性は認められず、この効果は取り込みとは一致していないと考えられた。こうした物質の作用機序について更に検討を行っている。
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