研究概要 |
従来細菌細胞壁ペプチドグリカン(MDPを含む)およびリポポリサッカライド(LPS)等々の細菌細胞壁成分によるマクロファージ活性化に関する研究は,形態学的変化,代謝変化,モノカイン産生能の増加等を観察する「現象論的」解析が主流であり,活性化物質とそのレセプターとの反応,さらにはその後に起こる細胞内シグナル伝達というような「機序論的」解析は進んでいない。それゆえ,MDPを含む細菌細胞壁成分によるマクロファージ活性化のメカニズムをレセプターおよびそれが介在した膜情報伝達機構の解析に焦点を絞って研究を行う事を試みた。細菌細胞壁成分によって活性化されたマクロファージは,形態変化およびモノカイン産生増強等々の代謝変化を生じると同時に,DNA合成が抑制され,細胞周期がGI期で停止することを見い出した。この現象はマクロファージが細菌細胞壁成分で活性化され,より強力な生体防御活性を持つ細胞へと分化する初期変化を観察していると考えられるので,本反応をマクロファージ活性化の指標とした。レセプターの解析は充分進めることはできなかったが,レセプター以後の膜情報伝達においてマクロファージのDNA合成抑制にはサイクリックAMP依存性リン酸化酵素(A kinase)が関与している結果が得られた。細菌細胞壁成分で活性化されたマクロファージのDNA合成抑制は,Thymidine kinase活性が特異的に低下すること,さらにThymidine kinase活性の低下は本酵素のmRNAの発現低下によった。現在,どのような機序でThymidine kinaseのmRNAの発現が低下するのかを解析するため,RBタンパク,E2Fあるいはサイクリン/サイクリン依存性リン酸化酵素の動態等々を調べている。さらに,A kinaseの活性化とThymidine kinaseのmRNA発現低下がどのように関連しているのかを,今後検討していかなければならないと考えている。
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