研究概要 |
コードファクター(trehalose 6,6′-dimycolate)は超高級脂肪酸であるミコール酸を構成成分としており,結核菌やその類縁菌に特徴的な菌体表層糖脂質として存在する.私達は,実験動物において抗コードファクター抗体が作製され,さらに結核症等の抗酸菌感染症患者血清中にコードファクターに対する抗体が高頻度かつ特異的に検出されることを見いだした.本研究では実験的に作製した抗コードファクター抗体ならびに抗酸菌症患者血清を用い,この抗体の認識するコードファクターの抗原部位の検索を行うとともに,コードファクターの肉芽腫形成やサイトカインの誘導などの活性にたいする抗コードファクター抗体の作用を検討した.実験的に作製した抗コードファクター抗体ならびに患者血清中の抗コードファクター抗体のいずれにおいても,コードファクターの認識部位としてミコール酸が重要であり,総炭素数,側鎖の構造と共にミコール酸分子種による構造の特異性を認識していると考えられた.抗コードファクター単クローン抗体は,マウス肺におけるコードファクターによる肉芽腫形成ならびに体重減少を指標とした毒性を抑制した.また肉芽腫形成局所におけるinterleukin-l,chemotactic factorの産生の阻害がみられた.すなわち,抗コードファクター抗体は,コードファクターのサイトカイン誘導活性に対して抑制的作用することにより,結核菌感染時の宿主の免疫反応を修飾する可能性が示された。なお,抗コードファクター抗体の抗原特性性について,ならびにコードファクターの生物活性の修飾について各々の点を早急に論文にまとめる所存である.また,ヒト感染時に認められるIgGクラスの単クローン抗体の作製が遅れたため,抗酸菌の細胞内寄生感染の成立との関連および生体内での抗酸菌生存率への影響を明らかにするには至らなかった.
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