研究概要 |
血液幹細胞の分化増殖はストローマ細胞との相互作用により調節されている.その作用の一端を担う接着分子VLA-4とそのリガンドであるVCAM-1,fibronectin(FN)の分子間相互作用が幹細胞やストローマ細胞の活性にどのような役割を担っているのかということを解析する目的で,幹細胞からのリンパ球分化を実験モデルとして研究を行った結果、以下の様な成果を得た. 1)マウス胸腺の個体発生に伴うVLA-4,VCAM-1の発現を調べた結果,胸腺細胞におけるVLA-4の発現は分化段階の早い細胞ほどその発現量が強いことが認められた.またストローマ細胞のVCAM-1の発現は胎仔胸腺では髄質相当部位に網目状に強く発現されているが,成体胸腺では血管内皮および血管周辺部を除いてはほとんど発現が認められなかった. モノクローナル抗VLA-4及び抗VCAM-1抗体をin vitro造血系に添加すると,胎仔胸腺器官培養系でのT細胞分化がCD4^-CD8^-の段階において増殖が強く抑制されることが認められた.またWhitlock/Witte骨髄培養系ではB220^+B細胞の分化増殖がかなりの程度抑制されたことから,VLA-4/VCAM-1の相互作用がリンパ球造血の初期ステージで重要な機能を果たしていることが考えられた. 3)マウスではVCAM-1分子に110kDa(7D)とPI-PLC型の42kDa(4D)の2つのフォームが存在するが,7Dは構成的に発現されるのに対して4Dはストローマ細胞を活性化した場合に強く誘導されることが認められた.また4DフォームをPI-PLC処理して可溶化したsoluble 4Dをリンパ球造血系に加えるとTおよびB細胞の増殖が強く抑制されることから,4Dフォームは造血系において誘導的な造血に寄与している可能性が示唆された. 以上の結果からVLA-4/VCAM-1の相互作用は造血系において重要な機能をはたしていると考えられ,今後それぞれの分子が如何なる情報伝達を幹細胞やストローマ細胞に対して行っているかを明らかにしたい.
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