研究概要 |
血液細胞系譜の発生において、最も初期に発現が確認される受容体チロシンキナーゼc-kitの遺伝子発現を、レチノイン酸とcAMPで誘導できる胚性奇形癌腫F9細胞を用いてc-kit遺伝子の転写調節領域を検索した。 EMBL3マウスゲノミックライブラリーよりc-kit遺伝子第1エクソン5'上流20kbから第21エクソン3'下流10kb間約120kbを回収し、pCATbasic(エンハンサー、プロモーターなし)ベクターに各ファージ内に挿入されていた断片をc-kit遺伝子の5'プロモーターを含む2.7kbの領域(pCATb-kit-NS6)の上流につなぎ、各断片のCAT活性を検討した。22断片の中で第9イントロンから第13イントロンを含む断片(pCATb-kit-NS6-K111)にF9細胞をレチノイン酸とcAMPで刺激した際に活性が出現することを確認した。この活性を検出するには3-4日の持続した刺激を必要とした。制限酵素を用いてK111を3'側より削っていくと、第9イントロン内のSacI-ApaI断片(SA4、573bp)と第13イントロン内のXhoI-KpnI断片(XK1、268bp)が欠落するとCAT活性が激減した。各々の断片内にはc-Myb,b-HLH-Zip(M-box),Ets,AP-1とGATA,Ets,C/EBP,c-Myb,b-HLH-Zipの結合コンセンサス配列がみられたが、レチノイン酸反応性領域配列は検出されなかった。SA4、XK1、SA4-XK1各断片をpCAT-kit-NS6ベクターに組み込むと夫々弱いながらもCAT活性を示した。さらに、タンデムにXK1断片を3つ挿入するとその活性は上昇した。以上のことからXK1断片には転写調節配列が存在すると考えられその制御配列を明らかにするための検索を行っている。この領域ではc-kit陽性のマスト細胞腫P815ではCAT活性は認められなかった。すべてのc-kit陽性細胞がCAT活性を示すのではないので、F9細胞で見いだした領域が、どの細胞系譜の発現調節を司るのか検討している。最近、c-kitの発現異常マウスW^<sh>,W^<pen>,W^<57>の遺伝子変異が5'上流数100kbに確認され、この領域にもc-kit遺伝子の制御領域が存在することが示唆されているので、各領域の機能について検討してみたい。
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