研究概要 |
1.法医剖検例36例について虚血・低酸素ストレス障害,外傷ストレス障害,乳幼児急死症候群,各種中毒,その他の各死因別にストレス蛋白HSP72及びubiquitinの出現様態を観察した.その結果,虚血・低酸素状態が長く続いた症例,アルコール,トルエン,向精神薬中毒例において海馬の神経細胞にHSP72が観察された.このHSP72の陽性像は作用した障害(死因)を反映しているものと考えられた. 2.虚血・低酸素障害例47例について生存時間が短時間の症例,長時間の症例,既往歴に低酸素障害がある症例,レスピレーター脳症例に分けて検討したところ,障害時間が数時間で神経細胞に虚血性変化が現れ,a-FGF及びb-FGFの免疫活性が明らかとなっていた.周囲に増殖するアストロサイトはvimentin,a-FGFを発現し,生存時間が長くなると,b-FGFが発現してくることが明らかとなった. 3.閉鎖性頭部外傷症例18例についてびまん性軸索損傷(DAI)の病理所見の検索を行った,その結果,11例にDAIの病理所見が観察された.18例のうち海馬の挫滅が高度な症例とレスピレーター脳症を除く14例について海馬の神経細胞変化を観察した.その結果,CA1領域において多くの神経細胞は萎縮・脱落していた,形態が保持されている神経細胞においても免疫組織学的にHSP,FGFが認められず,これらの細胞は機能的に障害が生じているものと考えられた.一方CA2-CA4領域ではHSP,FGFの免疫活性が発現しており,この部における神経細胞の障害抵抗性,細胞修復機転を反映しているものと考えられた.
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