研究概要 |
1.頭部外傷に基づく神経線維の形態的変化:法医解剖例の脳梁標本について,Holmes鍍銀法等によって軸索を染色し,さらにLuxol Fast Blue(LFB)によって髄鞘を重染色して観察した。その結果,頭部外傷受傷後2日以上生存した例では,軸索のretraction ball(RB)や髄鞘成分の球状化像(myelin globoid;MG)が多数認められた。より早期に死亡した例でも,受傷後5時間以上生存すれば,軸索の腫大,大小不同,蛇行といった3所見が揃って認められた。頭部外傷を伴わない例では,これら3所見が揃って認められることはなかった。 2.免疫組織化学による軸索変化像:頭部外傷に基づくより早期の軸索変化を明らかにするため,免疫組織化学によって種々の軸索構成成分を染色して検討した。まず,neuron-specific enolase(NSE),neurofilament(NF)の各subunit,mitochondria,Alzheimer presursor protein(APP)等に対する抗体を用いた染色標本について検討したところ,軸索の早期変化像を検索するためにはNSE,NF-M,APP染色が有用であることが示唆された。このうち,最も鮮明に染色されるNSEについて例数を増やして検討したところ,頭部外傷受傷後1時間以上生存した例の大部分から腫大軸索とRBが多数検出された。従って,NSE染色は頭部外傷に起因する軸索の早期変化像を検出するために有用なものと考える。 3.免疫組織化学による髄鞘変化像:頭部外傷に基づく髄鞘変化を明らかにするため,myelin basic proteinやproteolipid proteinに対する抗体を用いて髄鞘を染色したところ,両染色とも,LFB染色と同様に2日以上生存した例でMGを検出した。軸索所見に加えてこれら髄鞘所見を検討することにより,頭部外傷の受傷時期をより正確に推定できるものと考える。
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