研究概要 |
我々は切除不能肝細胞癌(HCC)に対しより根治性をめざし,Bragg-peak特性により周辺の正常組織に障害を与えることなく癌病巣のみを集中的に狙い撃ちにすることが可能な陽子線照射の治療を開始した.その結果,良好な予備成績を得ることができた.そこで,肝細胞癌に対する陽子線治療の臨床的有用性,適応基準の確立を本研究の目的とした。 対象34症例のうち26病変は,陽子線のみの単独療法(単独群)を行った。他の18病変はLipodol-肝動脈注入療法(l-TAI)を行ってもLip集積不十分であったため,陽子線照射を追加治療した群である(併用群)。腫瘍径の縮小率は,照射終了後3週後: 単独群26/26(100%),併用群18/18(100%);1年後:単独群24/25(96%),併用群13/13(100%);2年後:単独群7/8(88%),併用群10/10(100%);3年後:併用群5/5(100%);4年後:併用群4/4(100%)であった。観察期間中の局所制御率は,1年目:38病変中37例97%,2年目:17/18(94%),3年目:5/5(100%),4年目:4/4(100%)という良好な成績を得ることができた。陽子線照射後の再発は,照射野外のものが有意に多かった。経過観察中に陽子線治療が加わった群の5年生存率は80%,l-TAI単独群は40%と陽子線治療が加わった群は,l-TAI単独治療群に比べ有意に良好な生存率が得られた。治療中のQOLは、陽子線治療群のほうが、l-TAI単独群に比べ良好であった。 我々は病巣に選択的照射が可能であり、周辺の非腫瘍部への被爆を少なくすることが可能な陽子線治療をHCCに対し行った。良好な腫瘍縮小効果と局所制御を認め,HCC治療効果として有用な成績が得られた。また治療を中止するような,重篤な副作用の出現も認めなかった。今後切除不能肝癌に対し陽子線照射療法はQOLを損なわず、安全かつ有効な治療選択法、さらに集学的治療法の一環となると考えられた。
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