研究概要 |
炎症性腸疾患モデルとしてラットに2%の濃度の高分子硫酸デキストランNa塩水を2週間から3か月間自由に投与して作成した。このモデルの潰瘍性大腸炎とその発癌モデルの有用性についてはこれまでの研究業績で報告している。このモデルを用いて提出した研究実施計画に沿って実績を報告する。 1.組織学的検索(1)病理組織学的評価 本モデルはヒトの潰瘍性大腸炎の病理組織と酷似している。(2)DSS投与3か月のラットに高分化型の腺癌が発生した。しかし、本研究の目的のひとつである前癌状態(Dysplasia)と考えられる粘膜の粘液評価のためのHID-AB,PAS,Lectin染色はいずれも健常部の染色性と変わらず、これらの方法では前癌状態を発見することは困難であることがわかった。(3)BRDUによる細胞新生は修復期の病変部にその取り込みが観察されたが、前癌状態の部位のそれと比べて差はなかった。2.癌細胞のc-myc、TGFα,TGFβの免疫組織学的に同定したが、その反応態度は弱く癌の増殖形態とその抑制の評価は、これらの反応がDSSの長期間投与によって発生した癌細胞自体の性質であるのか併存する大腸壁の炎症に問題があるのか明確にできず将来の問題として残った。3.大腸癌発生の背景因子として重要な大腸壁の炎症の発生機序を知るために検索したIL-1α mRNA,TNF-α mRNA,Substance P mRNAの発現については前二者の発現は過剰傾向であったが、逆に粘膜内のそれらの含量は増加していた。Substance P(SP) mRNAは抑制された状態であった。これらの事実から癌発生の背景因子として炎症発生機序に関与するcytokinesであるIL-1α,TNF-α,neurogenic inflammatory factorであるSPが遺伝子のレベルにおいて関与していることを明らかにできた。
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