研究概要 |
癌抑制遺伝子のp53,retinoblastoma gene product(pRB)については、ヒトの肝より得た肝細胞癌組織及びcell linesを対象にして、免疫細胞組織化学的に前述の蛋白分子を染色し、癌細胞及びその間葉系細胞の増殖能や臨床的予後との関連を検討した。p53の表出はほとんど認められなかった。pRBは癌細胞の増殖能と正に相関し、癌細胞のみでなく、血洞細胞(Kupffer細胞、類洞内皮細胞、lymphocytes,及びstellate細胞)にもその表出がみられた。pRBは進行癌末期まで正常型が保存されている例が多く、予後及び治療等とは相関しなかった(Human Pathology 26:366-374,1995)。これらのことより、既知の癌抑制遺伝子の早期肝細胞癌の発生と増殖への強い関連性を見い出し得なかった。 次いで、当教室にて樹立したヒト肝細胞癌株(OCUH-16,OCUH-A1)に対し、ヒトの肝癌細胞の増殖因子と考えられているヒトtransforming growth factor-α(TGF-α)に対する中和抗体を培養3日目の肝癌細胞に添加すると、24時間後にはOCUH-16細胞で86.4%(IgGを添加したcontrolでは21.1%)の細胞がapoptosisに陥り、OCUH-A1細胞では43.8%の細胞が(controlでは31.3%)apoptosisに陥った。apoptosisの確認はDNA ladderの証明と電顕像によるchromatinのgranulation塊の形成及びTUNEL法によるDNA fragmentationの存在により行った。 添加24時間後にはDNA ladderがみられたが、48時間後にはsmearとなった。同時に、apoptosisはTGF-αの濃度に依存していた。実際TGF-αの中和抗体を培養液に添加しておくと有意に癌細胞の増殖が抑制された(Virchows Archiv 430:29-35,1997、Gastroenterology 108:A1167,1995発表、54回日本癌学会総会記事:220,1995発表、31回日本肝臓学会36:439,1995発表)。TGF-αはepidermal growth factor receptor(EGFR)を介して、細胞増殖を促進するので、EGFRの癌細胞膜上での存在を免疫細胞化学的に証明した。細胞内でのsignal transductionはtyrosine kinaseが関与すると考えられるので、これらについてはwestern blottingにて検索した。その結果、apoptosisの惹起に関して、tyrosine kinaseが関与していることが解った。その酵素の局在については検索中である。この後のtransductionに関してはmitogen activated protein kinases等を含め検討中である。
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