研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症の病因の一部に興奮性アミノ酸による神経細胞死のメカニズムが関与していることが示唆されているが、グルタミン酸受容体のサブタイプである代謝調節型グルタミン酸受容体を刺激すると神経細胞死が抑制されることが近年示されている。このことをinvivo系で明らかにするために、代謝調節型グルタミン酸受容体アゴニストである(2S,1'R,2'R,3'R)-2-(2,3-dicarboxycyclopropyl)glycine(DCG-IV)を微小浸透圧ポンプを用いて長時間(10時間以上)持続的に脳室内または脊髄くも膜下腔に前投与したあと、カイニン酸、アクロメリン酸をそれぞれ脳室内、脊髄くも膜下腔に投与し、引き起こされる神経細胞死に対するDCG-IVの防護作用を検討した。DCG-IVの前処理により、これらの興奮性アミノ酸による行動変化・神経病理学的変化が用量依存性に著明に軽減した(最大効果は8-27pmol/hで投与したときに得られた)。DCG-IVの前処理のみでは脳室投与では800pmol/h以下、脊髄くも膜下腔投与では80pmol/h以下の投与量ではラットには行動・病理変化はみられなかった。このin vivo実験の結果は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体サブタイプの活性化が興奮性アミノ酸の神経興奮作用・神経毒性と関係するのに対し、ある種の代謝調節型受容体サブタイプの活性化は、神経興奮抑制及び神経防護に関与し、神経細胞死の予防・治療が期待できることを示している。代謝調節型グルタミン酸受容体アゴニストは、興奮性アミノ酸の神経毒性を抑える可能性があり、筋萎縮性側索硬化症の治療法の開発の上で検討に値する。
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