研究概要 |
本研究はフィブリン塊に対する培養平滑筋細胞の反応を主に細胞生物学的手法を用いて解析した。まず,フィブリン・ゲル内への平滑筋細胞の侵入,遊走を定量的に評価する系を開発し,この系を用いてフィブリン・ゲル中への平滑筋細胞の遊走に影響を与える因子について解析を行った。即ち,培養皿上にコンフルエントに増殖した平滑筋細胞層上に,精製フィブリノゲン溶液にトロンビンを加えることによってフィブリン・ゲルを作成し,培養を続けると平滑筋細胞は経時的にゲル内へ侵入,遊走した。位相差顕微鏡により,遊走していない細胞と遊走細胞は容易に区別でき,1視野あたりの遊走細胞数を計数することにより,再現性のある定量化が可能であった。ゲル内への遊走細胞は培養6時間後より出現し,24時間まで直線的に増加した。また,遊走細胞数はゲル形成に用いたフィブリノゲンの濃度1〜5mg/mlの範囲で直線的に増加した。使用したトロンビンは0.05〜1U/mlの広い濃度範囲で遊走細胞数に影響しなかった。それより高濃度のトロンビンを用いると遊走細胞数は減少傾向を示した。さらに,以下の検討を行った。(1)ゲル形成後,アンチトロンビンIII,ヒルジン,PPACKを添加することによる残存トロンビンの阻害,(2)フィブリン・ゲル形成前にトラネキサム酸またはアプロチニンを添加することによる線溶系の阻害,(3)フィブリノゲンの尿素処理による第XIII因子の不活化,(4)フィブリン・ゲル洗浄によるフィブリノペプチドの除去,はいずれも平滑筋細胞の遊走に影響しなかった。以上より,フィブリン・ゲル内への平滑筋細胞の遊走は残存トロンビン,フィブリノペプチド,第XIII因子によるものではなく,また,線溶系の関与はないと考えられた。即ち,フィブリン・ゲル内への平滑筋細胞の侵入・遊走はゲルと平滑筋細胞自体の性質に依存しており,他の走化因子を必要としないことが明らかとなった。
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