研究概要 |
本研究では砂ネズミ一過性前脳虚血モデルを用いて、海馬の選択的脆弱性、及び遅発性神経細胞死のプロセスにおけるチロシンキナーゼ及びチロシン残基リン酸化蛋白質の関与について検討した。抗リン酸化チロシン抗体を用いたイムノブロットによる検討では一過性前脳虚血後5分以内にMAPキナーゼに相当する42kDのポリペプチドのチロシンリン酸化の亢進がみられたが、これは虚血の脆弱な海馬のみならず大脳皮質においても観察され、1時間以内に虚血前の状態に復する一過性のものであった。しかし虚血負荷後8時間から24時間にかけて、分子量160,115,102,92,85kDの蛋白質のチロシンリン酸化の亢進が海馬においてのみ観察された。このチロシンリン酸化の亢進はチロシンキナーゼの活性亢進が主として関与するものであり、チロシン脱リン酸化酵素活性は虚血前後で変化しなかった。免疫組織化学染色ではリン酸化されたチロシン残基含有ポリペプチドは神経細胞体、神経終末部に観察された。チロシンキナーゼの特異的阻害剤であるradicicolを虚血後15分の時点で投与すると蛋白質チロシン残基リン酸化の亢進が抑制されるとともに、本来なら数日後に発生するはずの海馬CA1領域の遅発性神経細胞死が抑制された。さらにラットにカイニン酸を投与した後に生ずる海馬の神経細胞死に際しても蛋白質のチロシン残基リン酸化の亢進が関与することが明らかとなった。以上の結果から脳虚血あるいは興奮性アミノ酸毒性に際して発生する神経細胞の選択的細胞死にチロシンキナーゼの活性化を介したチロシン残基リン酸化の亢進が関与していることを明らかとした。
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