研究概要 |
近年,細胞増殖因子の多彩な生理機能と疾患への関与が注目されている.本研究では特発性心筋症における細胞増殖因子の関与を明らかにする目的で,FGF,TGFβなど各種細胞増殖因子の発現を免疫組織化学,in situハイブリダイゼーション法,ウェスタンブロットなどの手法により分析検討した. 1.特発性心筋症患者の左室心内膜心筋生検より得た心筋組織について検討した.aFGFの免疫組織化学の結果,心筋症の心筋細胞にaFGFの集積が顕著であり,心筋aFGF陽性例は心筋症患者が対照群に比較して有意に高かった.また組織計測により算出した平均心筋細胞径,間質線維化率,毛細血管密度との関連について,aFGF陽性例の心筋細胞径は陰性例に比較して有意に大であった.心筋症の心筋細胞におけるaFGFmRNAの発現はin situハイブリダイゼーション法により確認された. 2.心筋症モデル動物の心筋組織における細胞増殖因子の発現について検討した.心肥大期の20週令ハムスターのaFGF染色では変性心筋を中心に非変性心筋にも広範に強い陽性像が認められた.肥大前期6週令ハムスターにおいても,非変性心筋にFGF染色が中程度陽性であり対照動物に比較して差を認めた.同所見はFGF蛋白のWestern blotにおいても確認された. 以上より,ヒト特発性心筋症の左室心筋細胞において成長因子の一つであるaFGFの発現が増加していることが明らかとなった.また心筋症モデル動物におけるaFGF発現の増加も確認された.aFGFが心筋症の病態生理に重要な関連を有することは明らかである.aFGFの心筋細胞肥大との関連について,aFGFの組織修復作用の一つとして代償性の心筋細胞肥大を生じさせる可能性があるが,これが心筋症の病態を悪化させるか否か,なお解決すべき点が残されている.今後,成長因子の果たす意義について,アポトーシスとの関連も含めて,さらに検討を重ねる必要がある.
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