心筋細胞は心房性ナトリウム利尿ホルモンやグロスファクター等を分泌するmultipotential cellsであるので、病的状態の心筋細胞自身がサイトカインの一種である腫瘍壊死因子(TNF-α)を分泌し、心筋細胞の肥大、線維化、心機能の低下に関与するという仮説を考えた。上記仮説を証明するために、虚血性心疾患および弁膜症患者15例(NYHA心不全分類III&IV:5例、I&II:10例)の開心術時に得られた心房組織を対象に以下の研究を行なった。 1)心房組織のどの細胞にTNF-αが発現しているかを、TNF-αに対するモノクローナル抗体を用いて免疫組織学的に検討した。その結果、NYHAIII&IVの5例中3例の心房心筋細胞でTNF-α陽性所見が得られた。しかし、NYHAI&IIの10例の心房心筋細胞ではTNF-α陰性であった。心房圧は、TNF-α陽性例では陰性例よりも有意に高かった(9±3 vs 4±2 mmHg、p<0.05)。 2)組織中に、TNF-αがどの程度存在するかをサンドイッチエライザー法にて検討した。NYHAIVの2例(3.1および4.7pg/mg)では、NYHAIIの2例(0.1および0.3pg/mg)よりTNF-αの量は明らかに多かった。 3)TNF-αのmRNAが存在するか否かをRT-PCR法で検討した。その結果、全例にTNF-αのmRNA発現がみられた。 以上より、TNF-αは心房心筋細胞において発現し、発現の程度は心不全の程度と相関した。よって、TNF-αは心不全になんらかの関与をしていると考えられた。
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