研究概要 |
ミトコンドリア病の病態解明のため,その代表的病型であるMELASを基に、mtDNAを除いたHeLa細胞(ρ0細胞)とA3243G変異を持つ線維芽細胞とり脱核し,融合して得られた細胞(ダイブリット)を用いての解析を行った結果、90%の変異率をもつ細胞で複合体Iの活性および酵素蛋白発現の著明な低下が認められた。クローン化細胞及び融合細胞の両実験とも細胞内のmtDNA変異の割合が一定の値を超えるとまず複合体I酵素の低下を示し、変異の割合の増加と共に他の酵素障害を示したことから,A3243G変異がMELASの病態を引き起こす一次的原因であることを証明した。さらにMELAS患者においてmtDNAの変異率と発症年齢も明確な負の関係を示したので,加齢と発症との関わりについて検討した。まず正常者の各年齢の線維芽細胞の電子伝達系酵素を測定し,加齢とともに複合体IVの活性が低下することを見いだした。次に複合体IV活性の著明な低下を示した97歳の正常者の線維芽細胞を用い加齢の病態を検討した結果,同細胞のmtDNAには量の異常や大きな欠失は認めないが,電子伝達系酵素蛋白の発現の低下を認めた。しかし脱核し,ρ0細胞と融合したサイブリットでは全く正常酵素活性を示し,酵素蛋白の発現も正常化した。加齢による電子伝達系酵素活性低下の一次的原因はmtDNAではなく,核DNAの関与によることを明確にした。またmtDNA変異を導入した細胞と加齢者の線維芽細胞はTCAサイクルの機能低下の点では同じ動態を示した。以上より,mtDNAの点変異は電子伝達系酵素活性の低下をもたらし,変異率が高い場合は変異そのものによる電子伝達系機能障害で早期に発症し,変異率が低い場合でも,加齢による電子伝達系機能の低下と相まって発症することを初めて明らかにした。
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