研究概要 |
研究実績の概要 【目的】ヒト腎炎の大多数は抗原抗体複合体の生成・沈着により生ずるが,抗原系に関する研究は極めて乏しい。本研究の目的はA群β溶連菌より腎炎惹起性抗原を分離精製し,抗原の生化学的特性を解析し,腎炎惹起性抗原の基本的構造を明らかにすることである。 【対象と方法】 (1)塩基性蛋白の分離精製 ヒト糸球体腎炎患者より分離したA群β溶連菌(T-12型)をGAM培地にて37℃,7h培養し,遠心後に菌体を得た.菌体を1.0M KCl(0.5M トリス塩酸バッファー pH8.5)溶液にて室温で1h振とうした.遠心上清(菌体蛋白)を更に超遠心(20万g,14h)して沈降物を除き,蒸留水で2回透析した。次にロトフォアによる等電点分別を行い,17〜19フラクション(pH>9.0)に塩基性蛋白を得た.得られた蛋白をSDSゲルにて電気泳動し,分子量を推定した。 (2)実験腎炎の作製 10週齢の雄ラットに溶連菌塩基性蛋白150μgを1週間隔で2回静注した(腎炎群).対照群には塩基性蛋白を含まないロトフォア分画液を同容積量投与した。両群とも2回目静注の1週後に屠殺し,光顕,蛍光抗体法にて腎病変を検討した。蛋白尿はテステープ法にて検討した。 【結果】 (1)塩基性蛋白の分離精製 分子量10KDaの溶連菌塩基性蛋白(pl>9.0)が得られた。 (2)実験腎炎 腎炎群では,びまん性増殖性糸球体腎炎が発症した.蛍光抗体法ではラットIgG,C3がメサンギウム領域と一部の糸球体系蹄壁に沈着していた。しかし,対照群では腎の形態的変化はなく,免疫グロブリン,C3の沈着は認められなかった。蛋白尿は腎炎群に陽性であったが,対照群では陰性であった。 【結論】本研究において,A群β溶連菌から腎炎惹起性抗原を分離精製する方法を明らかにした。この塩基性抗原は腎炎モデルの確立,ワクチンの開発,血清学的診断法などに応用できる可能性がある。
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