目的:視覚刺激(相貌、視空間、有意単語、色彩)の認知・弁別に関与する大脳の局在、または側方性(lateralization)を明らかにする目的で視野別刺激-左右手反応による事象関連電位および反応時間を測定した。さらに、側頭葉の視覚認知への関与をみるために、左または右の前側頭葉切除術を受けたてんかん患者での測定も行った。 対象:11-35歳の健常者36例(全例右利きを選択)および15-41歳の前側頭葉切除者12例(左切除者7例、右切除者5例)(アミタールテストで全例左半球優位を選択). 結果: 1)健常者では平仮名刺激を右視野(左半球)に、相貌または視空間点刺激を左視野(右半球)に呈示した時、反対側呈示に比べP300振幅が大であった。 2)ボタン押し反応時間は平仮名刺激で左半球呈示-左半球応答が最短、右半球呈示-右半球応答が最長であり、視空間“Dot"刺激では逆の関係を示した。 3)前側頭葉切除者ではP300振幅の低下と言語性および非言語性刺激に対する半球優位性の消失がみられた。特に左側頭葉切除者では平仮名刺激に対して低振幅化と波形不整がみられた。 4)P300潜時は左および右切除者ともに延長し、平仮名刺激では左切除者が、視空間点刺激では右切除者で著明であった。 以上の成績から、健常者の言語性視覚認知・弁別は左半球が、また非言語性視覚認知・弁別は右半球が優位であり、さらに、側頭葉切除例の検討から、側頭葉の関与が示唆された。 外科症例の集積、刺激の種類、方法などの開発、さらには、各種検査法(脳磁図、functional MRI、神経心理学的検査)との併用で今後の発展性が大いに期待される。
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