研究概要 |
血中リポ蛋白Lp(a)が小児において将来の動脈硬化症の発症を予測しうる危険因子であるかどうかを明かにするために,小児コ-ホ-ト集団において,まず血清Lp(a)濃度およびLp(a)表現型の正常値と正常パターンを明かにし,肥満度・血清脂質値との相関を検討した.さらに,アンケート調査による動脈硬化性疾患の家族歴の有無とLp(a)値,Lp(a)表現型との間に相関関係があるかにを検討した.対象は人口約8600名のS町の小・中学生.Lp(a)表現型はSDS-PAGE法で測定し,Lp(a)分子量のにより7種類に分類し,さらに,1個体で単一バンド(ホモ表現型)を持つものと2バンド(ヘテロ表現型)を持つものに分けた.本研究は本邦小児のLp(a)表現型をコ-ホ-ト集団で測定した最初のものである.その結果,1.小児の286名のLp(a)値は0.4〜106.9mg/dlの範囲で正規分布をとらず低値に偏よった分布をし,50mg/dl以上の高Lp(a)値の割合は5.4%であった.男女差は認められなかった.各種の血清脂質・アポ蛋白・血圧との有意な相関はなく,肥満度との関係もなかった.ただし,肥満(肥満度>20%)を伴わない高コレステロール血症(TC>200mg/dl)の場合において,Lp(a)値が有意に高値に偏位していた.2.動脈硬化症家族歴に関しては,Lp(a)値が30mg/dl(88パーセンタイル)以上の高値を示した小児の祖父における冠動脈硬化症の発症率がLp(a)30mg/dl未満の場合に比べて高い傾向にあった.3.小児264名のLp(a)表現型と動脈硬化症家族歴との関係においては,脳血管障害と心筋梗塞については明かではなかったが,Lp(a)の表現型が2バンドの場合に表現型が単一バンドの場合に比較して,家族歴での狭心症の発症率が高かった.以上より,血中Lp(a)は小児期においも動脈硬化症の危険因子と考えられ,Lp(a)のある種の表現型において将来の動脈硬化性疾患発症の危険率が高まる可能性が示唆された.
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