研究概要 |
事象関連電位(ERP)のうち受動的P300のみでなくmismatch negativity(MMN)は検査への能動的関与が全く期待できない児にも刺激の差の弁別の可否についての判定できる可能性がある。本研究では重度慢性意識障害児の視覚認知機能につきMMNが応用可能かどうか検討した。最重度の対象6例には理学的・神経学的検査,一般眼科的検査,神経生理学的ならびに画像診断検査を行った。このうち視覚刺激への反応が多少とも考えられた11歳女児について検討した。原疾患はPompe病で高コレステロール血症に伴う脳梗塞後,慢性意識障害となりこの状態は3年以上固定している。この児は母親や看護者の観察から,主治医と主治医以外の人物を識別している可能性があるとの評価を受けたため視覚刺激の選択は1.主治医A医師と非主治医B医師の普通の顔,2.A医師の普通の顔と笑顔,3.A医師の笑顔と普通の顔の3組とした。A医師,B医師の顔を表情を変えてビデオカメラで撮影し,プロセッサー,コントローラーを介してカラーモニターに各刺激を20%,80%の比率で与えた。低頻度刺激に対する反応で頭頂部での受動的P300の有無を判定しさらに,これから高頻度刺激に対する反応を引き算してえられる最初の低振幅の陰性波に続く陽性波をMMNとして前頭部での有無と潜時を判定した。対照は健常児・者5例とした。その結果,受動的P300は対照に比し潜時が遅れていた。MMNはそれぞれの刺激に対し対照同様に反応がえられ,潜時は課題1では330msecと対照より襲いもの2,3の課題では対照よりむしろ早い潜時でMMNがえられた。 すなわち本法にて重度の慢性意識障害児の視覚的な弁別機能の他覚的評価への応用可能であることが示唆された。
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