研究概要 |
一見無関係と思われる遠隔組織に,遷延する慢性微生物性感染病巣が存在すると,往々にして種々の皮膚病変を引き金するが,その病態生理学的機構に関しては不明の点が多い.近年免疫遺伝学的に良く保存された熱ショック蛋白(Heat shock protein,HSP)が細菌にとって高い抗原性を発揮する一方,宿主細胞も感染ストレス下でHSPを産生し,宿主側のHSPに対する免疫機構が注目されるようになった.そこで申請者らは本研究を開始し,病巣感染の機構解明の糸口としようとした. 申請者はこれまで種々の皮膚疾患で,ヒトらい菌由来HSP65(野間口博子作製)に対する抗体価をELISA法で測定した.その結果掌蹠膿疱症や乾癬,蕁麻疹,帯状疱疹の各患者の抗HSP65抗体価の上昇を認し,学会に報告してきた。さらに掌蹠膿疱症や乾癬における抗HSP65抗体価の上昇は,慢性扁桃炎あるいは歯周病変による病巣感染群に高く,このような病巣を持たない群あるいは正常者群との間に明らかな差を示した.したがって抗HSP65抗体価の研究により,細菌感染に関係する皮膚炎症性疾患の研究のための新たなアプローチの方法が示されたと言えよう. 最近,さらに申請者は病原ブドウ球菌の産生するスタフィロキナーゼ(SAK)に着目し,抗HSP65抗体価を連鎖球菌感染の指標であるASLOあるいはASKと比較したところ,抗SAKは独立したブドウ球菌感染症の指標であることが明らかに示された.抗SAKの測定は,病巣感染の起因菌の違いによる病像の違いを研究するため,簡便かつ有用な研究の手段であることが示された. 申請者は上記の研究に加え,皮膚炎症組織に浸潤する樹枝細胞の研究を行い,Factor XIIIa陽性樹枝状細胞,Thrombomodulin陽性樹枝状細胞,CD34陽性樹枝状細胞などが,いづれも既知の組織球マーカー陽性細胞と一致せず,それぞれユニークな炎症細胞であることを明らかにしつつある.これらに関しても学会への発表を継続している.
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