研究概要 |
脳内各種受容体の各種侵襲に対する反応を知ることは、生理的自動制御機構や病態を理解するうえで既に実用段階に入った核医学的手法による受容体画像の解釈には不可欠となる。コリン作動性神経はアルツハイマー病患者で減少することが知られ、コリン作動性神経と関連するムスカリン作動性アセチルコリン受容体(muscarinic acetylcholine receptor,mAchR)は痴呆病態の一面を形成していると考えられる。痴呆モデルに対するmAchRの反応を調べるために、ラット中大脳動脈閉塞モデルおよび対照シャム手術モデルを作成し、脳梗塞急性期および慢性期において同一個体にて3種類の脳連続切片画像化を行った。Tc-99m HMPAOによる脳血流、H-3 QNBによるmAchR受容体、およびmAchRで知られているm1からm5のサブタイプ遺伝子のmRNAについて特異的なS-35標識オリゴヌクレオチドを用いた組織内ハイブリダイゼーション法によるmAchR-mRNAの分布画像化を行った。血流、mAchR,mAchR-mRNAでは経時的変化に乖離がみられた。急性期では梗塞部位を中心に血流は著しく減少したが、mAchRに有意な変化はなかった。慢性期では患側視床の血流がほとんど変化しないにもかかわらず、mAchRは減少し、黒質では血流がわずかに増加するにもかかわらずmAchRは減少した。mAchR-mRNAは、尾状核線条体にて急性期から減少が認められ、梗塞部位のコリン作動性神経細胞の受容体合成が早期から低下していることが示唆された。以上のように、血流、受容体、受容体mRNAの各分布を解析し、比較することで、血管性痴呆やアルツハイマー病患者などにおける受容体イメージングを理解する際に重要な血流とムスカリン作動性アセチルコリン受容体分布の関係について新しい知見が得られた。
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