研究概要 |
動物にコカインを反復投与した際に観察される逆耐性現象(以下逆耐性と略)は分裂病のモデルとされ,その基盤には脳ドパミン(DA)作動性神経系の機能変化が想定されている.脳内透析法を用いた研究では,コカイン逆耐性形成動物に対して断薬7日目にコカインを再投与すると,逆耐性形成群では対照群と比較して線条体における遊離DA量が有意に増加することが報告されている.このような遊離DA量の増加が生じる機序として,コカインの直接の作用部位であるドパミントランスポーター(DAT)の機能異常が想定されている.先に我々は[^<125>I]RTI 55を用いたex vivoオートラジオグラフィーの検討を行い,コカイン逆耐性群でその放射活性が有意に減少していることを報告した.そこで今回はDATの変化をより詳細に検討するために,雄性ラットにコカインを21日間連日投与して逆耐性を形成し,断薬7日後の定常状態における線条体DATへの[^<125>I]RTI 55の結合を置換法によるラジオレセプターアッセイ(RRA)で検討した.非線形最小二乗法による解析の結果,DATへの[^<125>I]RTI 55の特異結合は高親和性,低親和性部位の2つが存在した.解離恒数(Kd),最大結合数(Bmax)両者に関して,高親和性,低親和性部位ともに逆耐性形成群と対照群との間に変化は認められなかった.コカイン誘導体である[^<125>I]RTI 55線条体においてDATに特異的に結合し,最近の報告ではその結合はDATの機能を反映するとされている.今回の結果は同じくDATの機能を反映するリガントであるWIN 35428を用いてコカイン連続投与に伴うDAT変化を検討したCerrutiやKoffらの報告を支持するものである.コカインはDATの再取り込みを阻害することから逆耐性に伴ってその作用部位であるDATの持続性変化が想定されたが,DATの変化は必ずしもコカイン逆耐性と相関しないことが考察された。
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