研究概要 |
細胞膜のリン脂質,Phosphatidylinositol-glycan(PIG)はインスリン刺激で水解され,イノシトールグリカン(IG)とジアシルグリセロール(DAG)を等モルずつ遊離する.我々はIGとDAGが多彩なインスリン作用に関与することを明らかにしてきた(リン脂質シグナル).またPIGは多数の蛋白を細胞膜にアンカーして,多彩な細胞機能の発現に関与する.我々はNIDDMモデル動物においてリン脂質シグナル障害,即ちIGとDAG生成反応の障害を報告してきた.PIG生合成の最初のステップ,PhosphatidylinositolにN-acetyl-glucosamineを結合させる酵素をコードする遺伝子がPIGA遺伝子である. NIDDMのインスリン抵抗性にPIGA遺伝子変異とPIG欠損が関与する可能性を明らかにする目的で,インスリン抵抗性NIDDMにおけるPIGA遺伝子変異をスクーリングした.NIDDM51例の末梢血genomicDNA,糖尿病性腎症の進行したNIDDM21例の筋肉genomicDNA,及び糖尿病性腎症の進行したNIDDM37例の尿沈渣細胞genomicDNAをPIGA遺伝子の7対のプライマーを用いてPCR-SSCP法で検索し,異常バンドを2例に認めた.PCR直接シークエンスにより,PIGA遺伝子911番C→T点異変(304番Pro→Leu)一例とPIGA遺伝子66番G→A点異変(22番Ser→Ser)一例のPIGA遺伝子異常を同定した.両症例ともミニマルモデルで評価したインスリン感受性は正常であった.本研究により,PIGA遺伝子異変がNIDDMのインスリン抵抗性に関与する可能性は低いことが示唆された.
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