研究概要 |
ミトコンドリア遺伝子変異による糖尿病がかわってきた.糖尿病性合併症罹患臓器にミトコンドリア形態異常と機能異常を認める.我々は糖尿病性慢性合併症にミトコンドリア遺伝子変異の関与を疑い,ミトコンドリア遺伝子変異を検索した.糖尿病性アミオトロフイ-,筋萎縮を伴う慢性腎不全および糖尿病性脂肪肝を合併したIDDM症列の生検組織を用いて、ミトコンドリアDNA欠失および呼吸酵素異常の関与,ミトコンドリアDNA欠失の正常ミDNAに対する比率を検討し,病態との関連性について検討した. PCR直接シーケンシング法で、塩基番号8220と13998の連結による5778bp欠失部位を確認した.欠失断端にTCCTAGAの7bpの直列反復が存在しており,Homologous recombinationにより欠失が生じたと示唆された.DNA欠失率は糖尿病性腎症による慢性腎不全と筋萎縮の症例で22.88±15.9%,糖尿病性アミオトロフイ-症例で11.2%,糖尿病性脂肪肝症例で9.53%と筋,肝ともに対照の2.23±1.2%と比べて高値であった.筋ミトコンドリア呼吸鎖酵素活性は複合体1の著明な活性低下を認め,欠失部位がコードするND5,ND4,ND4L,ND3の欠損と一致する。 ミトコンドリアは酸化的リン酸化によりATPを産生する場所であるが,エネルギー産生の5%強がフリーラジカル産生に用いられ,フリーラジカルによるミトコンドリアDNA損傷,deoxy guanosineから8-hydroxy-2-deoxyguanosineへの変換が該DNAに比べてはるかに多く起こる.糖尿病では酸化ストレスは増加しフリーラジカル生成は亢進する.亢進したフリーラジカル生成がdGから8-OH-dGへの変換を促進し,DNA複製時のミスマッチをきたしミトコンドリア5778bp欠失を糖尿病合併症臓器で増加させる機序が想定された.
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